赤い唇
- タイトル:「赤い唇」
- 初出:少年ジャンプ 1974/9/16
- 原題:「赤いくちびる」
- 文献「朱唇観世音縁起」(しゅしんかんぜおんえんぎ)
武蔵国の守の御娘 野遊びしたまふ折
いみじき(おそろしい)鬼あらはれいで
供の者ども ことごとに 喰らはれしが
御娘のみ やうやうにして たち帰りたまひぬ。
この姫 美しくも清げなるを
別人のごとくなりたまひて いと悪しき振舞ひし
その赤きくちびるにて よく人をまどはす。
「いみじき鬼のとりつきて鬼女となるべし」
と 人の口のはにのぼりけり。
父の守 怪しく思ひて 夜になりて うかがへば
姫 小さき童(わらわ)を とりて喰らひき。
…されば 当山に行脚の高僧おはして
魔性退散を祈りて 夜になりて
ひとり この姫見張りたまふ。
姫 鬼女となりて上人を喰らはんとすれど
上人一心に念じて つひに
姫に とりつきたる魔性
ありがたき観音像に封じ込めたまひぬ。
されど 御身も失せたまへば
その右腕をとりて 観音にぬりこめ
その霊験をもちて 魔性の封印となす。
これを 朱唇観音と名づけて 供養し
当山に伝えおくものなり。
- メモ︰歴史的に封印されていた鬼がひょんなことで開放され現代の世で悪さをする。似たプロットの作品があったかも。本作が長編でもう少しページがあったなら、鬼を封印する方法を探すプロットも色々と盛れて面白くなると思う。
- 作中に出てくる「朱唇観世音縁起」の古文書風の文がいかにもそれらしくていい。他の作品でも見られる、諸星先生の芸風の一つ。
- その他のみどころは、地味な女の子が鬼に取り憑かれて、魔性の女になるところ。ジャンプ掲載時はこの魔性の女が不細工だつたが、コミック版ではかなりの美人に書き換わっている。