Bunji Square Memo

メモの保存用。

花咲爺論序説

  • タイトル=「花咲爺論序説」
  • 初出=ヤングジャンプ 1985/9/12 号
  • 環状列石の発掘
  • 大和機墜落
  • 文献「花咲爺論序説」(雑誌「古代と民俗」に掲載)

「花咲爺」はもともと焼畑農耕民の間の伝承で
日本でも
焼畑
行われていた
縄文中期から
すでに伝え
られていたと
いうのが
私の説なんだ

灰をまいて 枯れ木に花を
咲かすのは 山林を焼いた
灰による 生命力の復活だ

焼畑
何年かの周期で
最初の土地に
戻ってきて
また 火をいれて
畑にするからね

 


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欲深じいさんに
殺された犬の
墓に生えた木から
臼を作ると その臼が
また 金銀を生む

動物から植物への変身…
農具である臼が 金銀を
生むとは 豊穣を意味する
動物を殺すことによって
その生命力が 植物に転化し
豊穣をもたらす…

これは 大地に対して
ある種の供犠が
行われていた古代の
儀礼の名残だと いうのさ
犬が 代用されるまでは
人間が…


「花咲爺」のポイントは
犬や臼よりも
枯れ木に咲く 花なんだ

犬は 中国の「狗耕田」型の
説話が 混入したものだ
臼や鍬は 農耕社会には
つきものの小道具でしかない
大地の豊穣を祈る 儀礼
関係がある という点は
あんたと 同じだがね…

 

  • メモ:
  • 稗田が発見した大規模な環状列石は生命をもたらす花を咲かせるシステムであり、薫や美加はこの花によって生命をもらいよみがえったのだった。
  • 昔話「花咲爺」は「生命の復活」が根底にあり、それは古代の焼畑農業というシステムを抽象化したものだというのが稗田の説。
  • 民俗学者の橘は「枯れ木に咲く花」こそがこの昔話のポイントだという。橘は生命力の花の種子を追い求めていた。


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  • 実際に起きた日航機の墜落事故を絡めて、死者のよみがえりの話を組み立てている。
  • 薫が自分の遺体を発見してしまうシーンがある。自分が死んだという事実に相当なショックを受けそうな気がするが、そのあたりの内面的な葛藤はあまり描かれず、淡々と物語は進んでいく。それでも、重くならずに淡々と進んでいく感じが諸星作品らしさであり、良さでもある。
  • 映画「ジャンボ・墜落 / ザ・サバイバー」を思い出した。ジャンボ機が墜落し、唯一生き残ったパイロットが原因解明をしていく、という話。
  • この後、薫や美加を軸とする「世界樹」をテーマにしたシリーズに続くわけだが、次の「幻の木」は約2年後の1987年まで待たねばならない。

ヒトニグサ

  • タイトル=「ヒトニグサ」
  • 初出=ヤングジャンプ 1982/9/16 号
  • 地名「水引村」
  • 文献「妖魅本草録」室井恭蘭

ヒトニグサ
芋ニ似テ 大キナル
根茎ヲ 有シ シバシバ
五又ニ 分レテ 小児ホドノ
大キサニナル
山中ニ自生ス
マレ二 大人ホドノ丈ニ
成長シ 手ヲ振リテ
村民ヲ招クト云フ
ソノ姿 人ニ似タルヲ
以テ 人似草ト云ヒ
村民ラ 気味悪ガリ
見ツケ 取リテモ
食フ事ナシ

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  •  文献「民間伝説中に顕われたる怪異植物に就いて」

「妖魅本草録」にみえたる
ヒトニグサなる植物は
その存在 疑わしき…

余は 過日 水引村を
訪れし折 この
植物につきたる伝聞を
いかさま 得られしも
その実物を 見知る者
ひとりもなきなり

思ふに 山芋の類の
幾又にも 分かれたるを
見て その姿 たまたま
人に似たれば
ヒトニグサと呼んだ
ものなるべし…

水引村の年寄の話には 山中に
人似草なる植物ありといふ
茸を採りに行く者 山中に
手を挙げて 招く者 ありと見て
近寄れば 人の姿したる植物なり
気味悪くなりて 逃げ帰りしとか

また云ふ

この草 大きくなると
地中より 自ら抜け出し
この根をもちて 歩きまはり
田畑に入りて 養分を盗むと

また 多分の滋養を 要する故
動物の死骸などに
根づくと云ふ…

  •  メモ:かつて妻を殺した男が妻の影に恐怖する話と、稗田が「ヒトニグサ」を調査する話が絡み合いながら進行していくプロット。

海竜祭の夜

  • タイトル=「海竜祭の夜」
  • 初出=ヤングジャンプ 1982/2/18 号
  • 地名「加美島」
  • 文献「平家物語
  • 地名「阿加摩神社」
  • 祭礼「海竜祭」:旧暦3月24日。
  • 阿加摩神社の神主の祝詞

青海(あおみ)の原の
底深き海神(わだつみ)の
宮におはします
君に 鰭(はた)の広物(ひろもの)
鰭(はた)の狭物(さもの)を
進る(たてまつる)事を
申し賜はく…
…しかれども
打ち物なく
五(いつくさ)の兵(つわもの)揃はず
今 しばらくの
御猶予を
たまはりて

来年の今月今日
この時 この所に
急に 集い奉って
命を
うけたまはらんと
思へば…

今日の日は
青海原の
底へ 帰り
忌(いは)い静まり
給へ…

 


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  • 「あんとく様の先触れ」=深海魚が打ち上げられたことと思われる。

 
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  • 「宝剣も先にお返し申し…」=彦ジィが海に投げ入れたものがキラリと光るシーンがある。

 
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  • メモ:安徳天皇の命日の旧暦3月24日になると、天皇の霊が海竜となって加美島を襲っていた。そこで阿加摩神社の神主は、あんとく様に海に引き返してもらうよう、鎮魂祭を行い、鳥居を配置し、祝詞をあげていた。
  • 自然現象的には地下変動による津波と解釈される。
  • 「加美島」は文字通り「神」に支配された島のことを指していると推測。
  • 「阿加摩神社」は安徳天皇を祀る「赤間神宮」(山口県下関市)が由来と推測。
  • 彦ジィが海に投げ入れた宝剣は三種の神器の「天叢雲剣」と推測。
  •  冷静に考えると、加美島の島民全員が彦ジィの自殺願望に付き合わされた感がある。このあたりの理由は特に語られないが、彦ジィは息子の勝吉を失い、人生に希望を持てなくなっていたから、というところか。

 

  • 市川崑の横溝映画のような雰囲気。
  • 彦ジィの琵琶法師のカットバックが、ジワジワと物語を盛り上げるいい効果を出している。
  • 冒頭から平家物語と琵琶の音からはじまり、物語はよどみなく一気にクライマックスへと進む。
  • 諸星先生の画力と構想力がいい具合に相互作用していると思う。

上野の美術館へ

ブリューゲルバベルの塔


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  • 東京都美術館
  • 大人1600円
  • チケット購入後、40分待ち。
  • 待ち時間を聞いて一瞬帰ろうかと思ったが、来週で東京での展示が終わってしまうので仕方なく行列に並ぶ。
  • ヒエロニムス・ボスの作品も展示されていた。
  • ボス作品もブリューゲル作品も細密で相当に近づかないと、鑑賞できない。
  • バベルの塔の現物よりも、三倍に拡大した複製画の方が色々細部を確認できて面白かった。現物の展示の仕方が実に残念。
  • 大友克洋による、バベルの塔の内部の再現図あり。

 

松方コレクション

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  •  国立西洋美術館の常設展示が無料だった。
  • ここは以下の二つの作品がお気に入り。
  • カペの自画像

作品詳細|18世紀|作品紹介|国立西洋美術館

  • 悲しみの聖母

作品詳細|17世紀|作品紹介|国立西洋美術館

  •  ところが、貸出中とのこと。残念。
  • 次回から、0357778600 に電話して、展示状況を確認しよう。

生命の木

  • タイトル=「生命の木」
  • 初出=少年ジャンプ 1976年8月増刊号
  • 文献「世界開始の科のお伝え」(せかいかいしのとがのおつたえ)

そもそもでうすと敬い奉るは
天地の御主 人間万物の御親にてましますなり
はじめに 天地万物を つくらせたまい
また 土より五体をつくりて人となし
これ あだんとじゅすへるのふたりなり
ぱらいそに二本の天の木あれば かならず
食うことなかれと でうすかたく仰せあるを
じゅすへる あだんをたばかりて
あだんは まさんの木の実をとりて
じゅすへるはいのちの木の実を食しける
これより たちまち天の快楽をうしない
あだん その妻えわと下界に追いやられ
畜生を食し 田畑を耕してまいるべし
また じゅすへるの子ども 死ぬことなく
生みふえれば でうす こを憂いたまいて
地をひらきて いんへるのに落としたもう
その子孫 わずかに人からかくれ住み
いのちの木の実の功力にや 死ぬこと
なしといえども でうすの呪い受けたれば
順次に いんへるのにひきこまれ
子し孫そん 地の底に身をもがき
きりんと参る日まで 苦しみつきざるというなり

  •  地名「軽張山」(別名「骨山」)≒「カルヴァリオ」(「しゃれこうべ」)
  • 文献「天地始之事」(てんちはじまりのこと)
  • 「重太」(じゅうた)≒「Judas Iscariot」(「イスカリオテのユダ」)
  • 「善次」(ぜんず)≒「Jesus」(「イエス」)
  • 「三じゅわん」≒「聖ヨハネ」(三人のヨハネ=「洗礼者ヨハネ」「使徒ヨハネ」「福音記者ヨハネ」)
  • 「あだん」=「Adam」
  • 「じゅすへる」=「Lucifer」
  • 「まさん」=「Maca」(「林檎」)
  • 「えわ」=「Eva」
  • 「いんへるの」=「Inferno」(「地獄」)
  • 「きりんと」=「Christ」(「救世主」)
  • 「ぽろへしゃす」≒「profecia」(「預言」)
  • 「けるびん」≒「Cherubim」(「智天使ケルビム」)
  • 「ぐろうりや」≒「gloria」(「栄光」)
  • メモ:知恵の木の実を食べたアダム=我々人類の祖先。でも生命の木の実を食べなかったので不死ではない。生命の木の実を食べたルシファー。でも知恵の木の実を食べなかったので知恵が低い。
  • もちろん、生命の木の実と知恵の木の実の両方を食べたら、それは神の存在であると。そして、そのルシファーの子孫にもきっと救世主がいるはずだという発想が奇抜すぎて面白い。
  • そして本作でも「世界開始の科のお伝え」なんていう古文書のそれっぽさが異彩を放っている。

死人帰り

  • タイトル=「死人帰り」
  • 初出=少年ジャンプ 1974/9/23, 1974/9/30, 1974/10/7
  • 原題=「帰ってきた死人」
  • 儀式「反魂の術」「死人帰り」
  • 文献「撰集抄」(西行の説話集)

西行高野山にいた時

ひとりで修行する

寂しさ 人恋しさから

昔聞いた 反魂の術を

使って 白骨から

人間を作ったという

しかし…その人間は

人の心もなく

人間らしさもなかった

  • 死人のセリフ

偉大ナル神 原子混沌ノ神ヨ…

ヒルコノ父 スベテノ生命

疑似生命ノ父ヨ…

グルル~ン

  •  稗田のセリフ

人間に遺伝されている

地球上 最初の

原始生命の

古い記憶が…

地球の誕生と

ともに存在した

巨大な超生命体だ!

日本では

アメノミナカヌシ…

聖書ではエホバ!

ニュージーランドのイオ

ポリネシアのタナロマなど

あらゆる国の神話で

世界最初の神と

伝えられている…

この超生命体が

まだ地球上が混沌と

していた時に

最初の原始生命と

妖怪と呼ばれている

疑似生命の

先祖を生んだのだ!

  •  メモ:反魂の術で死者を蘇らせたら、異生物がとりついてしまった、というプロット。「黒い探究者」と同じく人類発生以前の超生命体が人類からは神とみなされている、という考え方。ラブクラフトの影響と確信してよさそう。
  • 少年ジャンプでの妖怪ハンターの連載は本作で完了となった。
  • 次は 1976年の「生命の木」まで待たねばならない。

赤い唇

  • タイトル:「赤い唇」
  • 初出:少年ジャンプ 1974/9/16
  • 原題:「赤いくちびる」
  • 文献「朱唇観世音縁起」(しゅしんかんぜおんえんぎ)

武蔵国の守の御娘 野遊びしたまふ折

いみじき(おそろしい)鬼あらはれいで

供の者ども ことごとに 喰らはれしが

御娘のみ やうやうにして たち帰りたまひぬ。

この姫 美しくも清げなるを

別人のごとくなりたまひて いと悪しき振舞ひし

その赤きくちびるにて よく人をまどはす。

「いみじき鬼のとりつきて鬼女となるべし」

と 人の口のはにのぼりけり。

父の守 怪しく思ひて 夜になりて うかがへば

姫 小さき童(わらわ)を とりて喰らひき。

…されば 当山に行脚の高僧おはして

魔性退散を祈りて 夜になりて

ひとり この姫見張りたまふ。

姫 鬼女となりて上人を喰らはんとすれど

上人一心に念じて つひに

姫に とりつきたる魔性

ありがたき観音像に封じ込めたまひぬ。

されど 御身も失せたまへば

その右腕をとりて 観音にぬりこめ

その霊験をもちて 魔性の封印となす。

これを 朱唇観音と名づけて 供養し

当山に伝えおくものなり。

 


 

  • メモ︰歴史的に封印されていた鬼がひょんなことで開放され現代の世で悪さをする。似たプロットの作品があったかも。本作が長編でもう少しページがあったなら、鬼を封印する方法を探すプロットも色々と盛れて面白くなると思う。
  • 作中に出てくる「朱唇観世音縁起」の古文書風の文がいかにもそれらしくていい。他の作品でも見られる、諸星先生の芸風の一つ。
  • その他のみどころは、地味な女の子が鬼に取り憑かれて、魔性の女になるところ。ジャンプ掲載時はこの魔性の女が不細工だつたが、コミック版ではかなりの美人に書き換わっている。